新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークの導入が進みました。しかし、緊急事態宣言の解除を機に企業の中には通常の勤務形態に戻すところも出てきました。そして、再び感染拡大が懸念されており、今後の対応に苦慮している企業も多いようです。
withコロナ時代がやってきた
2020年5月末に最初の緊急事態宣言が解除されてから、社会・経済活動の制限や自粛要が段階的に緩和が進められました。それに伴い、多くの企業は「出社人数を制限する」などの措置を解除し、徐々に元の勤務形態に戻りつつありました。しかし、その後、感染状況は収まらず首都圏を中心に緊急事態宣言が再び発出されるなど、その度に各企業は難しい舵取りを迫られています。
今後も、新型コロナウイルス感染拡大の収束には時間が掛かることが予想されます。感染防止をしながら経済活動は前に進めなければならず、しばらくはウイルスと共存する、いわゆる「withコロナ」の姿勢で対応していかざるをえません。
テレワークを実施した感想は?
緊急事態宣言下で多くの企業がテレワークの導入を急ぎました。実際に導入してみた感想はどうだったのでしょうか?新型コロナウイルスの影響でテレワークを経験した会社員を対象に実施された調査(株式会社日本シャルフ社による)の結果からみてみましょう。
テレワーク導入前と後では意識に変化があった?
調査の結果によると、「テレワーク導入当初不安があったか」の問いに、7割近くの人が「はい」と回答しました。それに対して、テレワークを実際に実施した感想については、「非常に良かった」が24.1%、「良かった」が56.9%で合わせると8割を超えます。
この結果をみる限り、テレワークの導入時は不安があったものの、実際にテレワークを実施してみると、なんらかの効果を感じられたことが伺えます。
テレワークを導入して良かったという感想を持っている人が多いことがわかりましたが、今後テレワークを継続したいか、継続する場合、どのくらいの頻度で実施したいと考えているのでしょうか。
調査の結果によると、テレワークは継続しなくて良いと考えている人は12.8%で、週1日未満の実施でよいと回答した人と合わせても2割に満たず、8割を超える人が頻度に差はあるもののテレワークを継続したいと考えているようです。
テレワークの実施頻度については、週1~2日が一番多く、次いで週3~4日と、合わせると6割を超えます。週5日の実施は2割弱でした。この結果から、テレワークとオフィス勤務とを併用しながら働きたいという考えを持っている人が多いことがわかります。
テレワークの良かった点は?
調査の結果得られた回答は以下のようなものがありました。
- 通勤によるストレスがなくなる
- 感染リスクを防げる
- 生産性・業務効率化の向上
- 職場の人との対人ストレスが減った
- 労働時間の削減
このように、通勤によるストレスから解放されたり、新型コロナウイルスの感染対策になり良かった点の他に、生産性の向上や業務効率化に効果があったことがわかります。
テレワークに対する意識は変わりつつある
こうしたテレワークを実施した感想をみると、導入前は不安があったものの実際に実施してみると、今後も継続したいという声があり、テレワークに対する考え方は変わったようです。
企業は、こうした従業員の意識の変化やウイルス感染拡大の状況を見極めながら対応していくことが求められます。
実際に緊急事態宣言が解除された後も、テレワークによる在宅勤務から通常勤務に戻して全社員を出勤させるという企業は少ないようです。従業員の少ない零細・中小企業や工場で製造する企業などでは、全社でテレワークを続けることは難しいことが想像されます。それでも、多くの企業は出社自粛を一気に解除するのではなく、テレワークを併用しながら段階的に解除する方針をとる企業が多くなっています。
特に大企業は、緊急事態宣言が解除されてから今後の働き方の方針を次々と発表しました。そのほとんどが、程度に差はあるもののこのままテレワークを続けるとしています。
大企業の多くはテレワークの継続を発表
2020年5月に最初の緊急事態宣言が解除された直後には、大企業の多くがテレワークを継続すると発表しました。
例えば、GMOインターネットグループの発表をみると、緊急事態宣言の解除後でリモートワーク制度が稼働する前は「原則として在宅勤務の継続」し、「在宅勤務が業務遂行に影響を及ぼす、または法令対応やお客様対応など業務上出社が必要な場合については、グループ各社・上長の許可のもと出社を認める」としました。
そして、6月上旬のリモートワーク制度の稼働後は、週の1~3日を目安に在宅勤務とする方針を発表しました。さらに同社は、勤務体制、オフィス環境、行動様式、ビジネスの各方面から 『withコロナ時代』を踏まえた体制・行動を検討し、「新しいビジネス様式 byGMO」を策定しました。
その他の大手企業のおもな動き(2020年6月時点)
企業 | 方針 | その他 |
サイバーエージェント株式会社 | 毎週月曜は基本在宅勤務とする「リモデイ」を導入 | リモートのメリット・デメリットを協議して方針を制定 |
日本IBM株式会社 | 4つの段階(Wave0~3)毎の緩和施策 | 臨床状況や公共輸送機関や教育・介護サービスの利用状況も含めて検討 |
株式会社東芝 | テレワーク継続(工場:週休3日制) | 感染防止策として、原則在宅勤務 |
株式会社オプトホールディング | 出社週2日以下 | 通勤手当に代わる「ワークデザイン手当」を支給、本社ビルの1/3を解約 |
株式会社ドワンゴ | 原則在宅勤務 | 在宅勤務に必要な手当や運用制度を整え、7月から本格導入する方針 |
石堂株式会社 | 週勤5日の廃止&出勤制度の廃止 | 次世代の働き方、勤務時間にとらわれないジョブ型職務を軸としたワークスタイルを発表 |
ソウルドアウトグループ | フルフレックス&フルリモート制度を導入 | 全社員が在宅勤務を経験し、働き方の多様性が進み、複数のメリットが出たことを評価 |
AGC株式会社 | 週3日在宅勤務 | 出勤者の比率を50%以下に減らす。在宅勤務の環境を整えるため通信機器の購入費用の半分を会社が負担 |
富士通株式会社 | 原則リモートワーク | 出勤率を25%程度に抑えながら段階的に再開 海外・国内遠方出張も原則禁止、WEB会議を最大限活用する |
freee株式会社 | 原則在宅勤務 | 必要に応じて出社・訪問を一部認める体制へと移行 |
こうして見てみると、段階的に出社する従業員を増やす企業もあるものの、ほとんどの企業がテレワークをそのまま継続していく方針であることがわかります。
コロナ対策が長期戦になることを意識した動きも
大手企業のカルビーはいち早くテレワークによる勤務体制を続ける方針を打ち出していましたが、6月の終わりにはさらに踏み込んで、テレワークによる勤務で業務に支障がないと認定されれば単身赴任を解除するという方針も発表しました。これは、新型コロナウイルスとの長期戦を見据えた判断だと考えられます。他の企業でもテレワーク実施期間を無期限で延長する動きが相次ぎました。
緊急事態宣言下でテレワークの導入が進んだことで、それまで企業が抱えていた課題が洗い出される形になりました。解決策を模索しながら企業とその従業員が在宅勤務を経験して、テレワークは新しい働き方として受け入れられ定着しつつあると考えられます。
また、先に紹介した大企業の中でも、石堂株式会社は次世代の働き方としてジョブ型職務によるワークスタイルを導入、ソウルドアウトグループは在宅勤務を経験してそのメリットが評価されたとして、フルフレックス&フルリモート制度を導入しました。このように、コロナ対策の長期化を見据えた対応をとる動きも出てきています。
withコロナで進む企業の様々な模索
新型コロナウイルスとの戦いが長期に及ぶ中で、企業の模索はさらに続きます。
「オンライン接客」で新しい営業スタイルを
テレワークを実施するのが難しい業務の代表的なものは営業だと言われます。営業スタッフが客先に足を運んで顔を合わせて商談に臨む、この当たり前に行われてきた営業スタイルはコロナ禍の状況では自粛せざるをえません。また、デパートなど店舗で対面販売による売上が大きい業種でも、外出自粛で客足が遠のく状況で売上の大幅な減少に苦心しています。これからどのように売り込みをすればよいのか、企業は新しいアイデアを求めて知恵を絞っています。
落ち込んだ売り上げがなかなか回復しないという企業は少なくありません。そうした中、新たな形でネット販売に活路を見出そうという動きが広がっています。
その一つにデパートの戦略があります。デパートは、婦人服や紳士服のサマーセールや物産展などの大規模なイベントで大勢の客を集め、その来店客が他の売り場も巡りより多くのものを買ってもらうという戦略があります。しかし、このコロナ禍では密閉密集を避けなければならず、その戦略での売り込みはできません。さらに、外国人への免税販売もほとんど止まってしまい、元のような売り上げには回復していない状況です。
そうした中で、各社が力を入れているのが新しい形のオンライン販売です。
例えば三越伊勢丹ホールディングスは、オンライン会議システム「Zoom」などを活用して、自宅にいる客に商品を紹介するサービスをしています。店にいる販売員が商品の特徴を詳しく紹介、客が気に入ればネット通販で購入することが可能です。このように、ただネット上の画面で商品を見せて売るだけでなく、客が来店した時と同じように質問に答えたり相談にのるという、いわゆる「オンライン接客」がひとつのトレンドになっています。
この他にも、国内外で1300の店舗を展開するアパレル大手企業は、服を単品で売るだけでなくお勧めのコーディネートを提案し、客から別の組み合わせを聞かれたらリアルタイムで答えられる仕組みで販売しています。こうしたネットを通じて客とコミュニケーションをとりながら行う販売方法は、化粧品や家具の販売でも取り入れられています。実際の店舗に足を運ぶ客がなかなか戻らない中、新たなオンライン商戦で売り上げを支えようとしています。
このようなオンライン商戦はデパートやアパレル業界に限らず、テレワークで自宅から営業できる可能性がある業種もたくさんあると考えられ、オンラインによる営業活動はあらゆる分野で採用され新たなアイディアも加えられながら今後広がっていくと考えられます。
地方や小規模の企業にも活路が広がる
ネットを通じた販売の動きは地方の規模の小さい企業にも広がっています。小規模の企業は大手企業と違い知名度も低く、ネット環境を整えるのは技術的にも大変だと考えられます。そうした企業でも販売が増やせるよう地域の金融機関が後押しする動きが出ています。
長崎県の陶器の産地波佐見町では、毎年5月に30万人が集まる陶器祭りが開かれていますが、2020年はコロナ禍のために開けませんでした。そこで地元の地方銀行「親和銀行」の提案でネット上での見本市を開きました。参加したのはわずか3社でしたが、約2週間で想定の3倍を超える1000万円余りの売上があったそうです。
これは、親和銀行も傘下となっている「ふくおかフィナンシャルグループ」のIT会社が運営しているオンラインモールで商品をとりあげたり、このIT会社が開発したアプリを利用している預金者など100万人のリストをもとに宣伝のメールを配信したことや、さらに銀行の担当者が販売のアドバイスをして工夫をしたことが、売上の向上につながったようです。
このように銀行が地域の企業を支援するのは理由があります。地方銀行は地域の企業に融資をしていますが、地域経済は人口減少などで衰退しつつあります。地域企業の経営が悪化すれば銀行にとっても貸出先を失うことになり、逆に地元の産業が元気になれば銀行の事業もプラスになります。こうして共存共栄を図り、助け合いながら地域の経済を支えようという試みです。
この波佐見町のオンライン陶器市は2回目が開催され、前回の3社から10倍近い企業が参加しました。先にデパートの客足が落ちている話をあげましたが、参加する陶器メーカーの中には、これまでデパートを主な販売ルートにしていた業者がそこでの売上が期待できなくなり、このオンライン見本市に参加したという例もあります。
こうしたオンラインによる営業方法はコロナ収束後の販売戦略として普及していくと考えられます。
地方の中小企業も海外に販路を
海外市場というと中小企業にとってはハードルが高いようですが、JETRO(日本貿易振興機構)がそのハードルを下げる取り組みをしています。
「ジャパンモール」という制度で、まず中小企業が売りたい商品をJETROのデータベースに登録します。このデータベースは、海外でオンラインショップを運営する業者が閲覧することができ、関心を持ったらその製品をつくっている企業と商談をします。海外との取引に不慣れな企業に対してはJETROがサポートしてくれ、複雑な輸出手続きなども自分たちでやらなくても済むようになっています。
地方の中小企業にとって海外との取引は大変だと思われますが、国内では当たり前になっている商品でも、海外からみると魅力ある商品として評価されることもあり、こうした方法で販路が広げることも考えられます。
カギを握るのはオンラインの活用
こうしたテレワークをはじめとしたオンラインの仕組みによって問題を解決する動きは、コロナ危機がきっかけとは言え、ピンチを逆にチャンスに変えることができることの表れかもしれません。そして、その手段を採用して変われた企業と変わらなかった企業では、コロナが収束した後の命運が別れることになるかもしれません。
働き方も企業の在り方も変わる
先に大手企業のカルビーがテレワークで業務に支障がでなければ単身赴任を解除する方針を出したことを挙げましたが、こうした企業の従業員を雇用する形態も変わる可能性が出てきました。テレワークで業務ができれば、企業の所在地で雇用するのではなく、どこの地域でも求める人材を雇用することが可能になるのです。
また、これまで全国に展開するために営業所などの拠点を置いて活動を行ってきた企業も、テレワークで働く現地の企業や人と契約や採用をすることで、拠点を置く必要がなくなることも考えられます。
このように、世の中の働き方はコロナ危機をきかっけに大きく変わり始めています。営業もオンラインの仕組みを活用するなど、企業の業績の上げ方も変えざるをえなくなっています。この変革の波に乗れなければafterコロナの時代になった際には大きな差となって、生き残ることさえ難しくなるのではないかと予想をする専門家もいます。テレワークは新しい働き方を実現する手段にすぎませんが、変革のカギを握っているのは間違いありません。
withコロナ時代を上手く乗り越えて、次の時代に備えて知恵を出す時かもしれません。テレワークを上手く活用してワンランクアップを目指しましょう。
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